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【第4章】フラッシュと暗転

最終更新:2009/11/16 10:52 │ 【小説】工藤夫婦の堕落 | コメント(0)

【第4章】フラッシュと暗転

 

 

 瞬くフラッシュに頭が真っ白になった。歓楽街のホテル街に、僕は立ち尽くしていた。ぼくの傍らに立っていたのは、さっきまで僕の小さな陰茎をジュルジュルと口で扱き上げ、情けなく吐き出された精子を「いっぱい出たね」と呟いて飲み込んでくれた女性だった。彼女は『記念撮影』が済んだことに気づくと、フラッシュの方向ににこやかにピースをし、足早に立ち去っていった。そして女性に手を振り、こちらにカメラを向けて笑っているのは・・・九州にいるはずの倉田と、ぼくが今日抱くはずだった最愛の妻、咲希だった。

 


ハニカム  ハニカム

 

 

「あはっあはははっ、やだもう、ほんと最高・・・あはっ!」

 

「だろう?こうすれば絶対風俗行くと思ったんだよ。だって毎日そこのサイト見てたんだから…どれだけたまってるんだよ、気持ち悪いね、妄想クンは」

 

「そうなの、家のパソコンでブラウザ履歴見たら、毎日『おしゃぶりM天国』『おしゃぶりM天国』『おしゃぶりM天国』・・・訪問件数107件だって!どれだけ見てるのよ、気持ち悪いの通り越して笑っちゃったわ」

 

 がたがたと体が震えるのがわかった。目に涙を浮かべて笑う咲希の顔。あきれたような、さげすむような・・・。あくまでもクールだが、いっそう哀れみのこもった倉田の表情。二人の手には、それぞれ高性能に違いない一眼レフのカメラが握られていた。

 


「工藤クン、お疲れ様。気持ちよくドピュっと出来たかい?」

 

「あン、ご主人様と違ってこの人がそんなに精液出せるわけないじゃないですか。お口でちょっとしごいたらせいぜい『小さじ一杯』が『ぴゅるっ』て出ておしまい。それだけに1万円以上も出すなんて馬鹿みたい」

 咲希が、僕を、けなしている。

「あなた、最低ね。自分から風俗行ったら離婚するって言ってたわよね?いっとくけど写真があるし、証人もいるんだから。言い逃れできないからね。慰謝料っていくらくらいもらえるのかな?あはっ」

 

「俺は残念ながら女性に不自由してなくてね。風俗に行ったことがないからわからないんだが、工藤クンの待ってるホテルにあの女性がデリバリーされるんだろ?女性がお店を出たところで買収させてもらったよ。いつでも証言してくれるそうだよ?『工藤サンは毎週わたしを指名してくれて、変態プレイを繰り返した上、接待費として会社の領収書を切りまくってた』ってね」

 

 

 暗転。

 転落。

 初めての風俗、数日ぶりの射精で浮かれあがっていた頭が急速に冷め、体全体が萎縮するのを感じる。

 

 

 

 ハメられた――。

 

 

 

 全て罠だった。セックスを拒否されたことも。「金曜の夜」の約束も。九州の出張も。ホワイトボードも。いつから?倉田と妻はいつから僕をハメようとしていた?どこからが本当で、どこからがウソだ?妻はこんなさげすんだ目で僕を嘲る女性だったか?咲希は――本当に僕のことを愛して、結婚してくれたのか?

 

 

 

「わかってると思うけど」と妻が言った。

「あなた、妻の私だけじゃなくて直属の上司にも風俗入ったの見られたんだからね。会社のお金も使い込んで、毎日風俗通いだなんて。安心して、あなたが毎日サイトをチェックして、お気に入りの子に貢いでた『記録』もちゃんととってあるから。まずは離婚してもらうし、会社もクビね。財産分与ってわかる?私のほうが収入もあなたよりあるんだし、家計に貢献してたってことであの家は私が貰うから。もちろんすぐうっぱらってご主人様のマンションに行くけど・・・あーほんと、こんな短小包茎クズなんかと…子供がいなくてよかった♪」

 

 倉田の太い腕に抱きつき、少女のように笑う咲希。その左手に指輪はなく、僕に見せびらかすようにひらひらと揺らしているのは、サイン済の離婚届だった。血の気が引いていく。咲希は今、倉田のことをご主人様といったのか?思考がまとまらない。




 しかし、地獄はそこで終わらなかった。狼狽するぼくを見て、倉田は笑うのをやめ、こう言った。



 「実は、君には破滅しない道もあるんだ」

 なんだって?
 

「最後に一つだけチャンスをやるよ、と言ってるんだよ。優しい僕らはね。何しろ俺の大事な奴隷が一時期世話になった男だ。最低限の温情はかけてやらねばね。どっちにしろ君の人生はおしまいだが、条件付で最悪の事態だけは許してやらないこともない、ということさ」

 


 チャンスだって?


 

 咲希は笑った。

 

「そうそう、どっちにしろ、短小・早漏・低年収の翔太さんにふさわしい、みじめーな生活が待ってるんだけどね」

 

「君にある提案があるんだ。なに、ちょっとした『契約』を結べばいいんだ。そしたら、この写真が表ざたになることはないし、君はあの家を出て行かなくてもいい。会社にだって残れるぞ、むしろいまより快適な仕事ができるかもしれない。そうだ、包茎手術もしてやろうじゃないか」

 

咲希が吹き出すのと同時に、倉田の口がいやらしく、三日月状に割れた。

 


「単純なことさ」


「俺と、君たち夫婦との、『奴隷契約』を結んでほしいんだ…」





 あっさりと言われた聞き覚えのない単語。絶望の中で示されたその甘美な響きに、なぜか下半身がふたたび、わずかに勃起しはじめたのを僕は感じていた。

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