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【2】美優~転落アイドルAVデビュー~

最終更新:2012/05/18 21:55 │ ブログ記事 | コメント(0)
 たまにデートができても、美優は心ここにあらずといった調子だった。なぜかいつも携帯電話を気にしていて、例えば喫茶店にいる最中でも、事務所かららしい着信があるとあわてて店の外に出て行ってしまう。ガラスの向こうでしばらく話をして戻ってきたかと思えば、

「ごめんねハルくん、また急な呼び出しが入っちゃった。今度はぜったい埋め合わせするから」

 などと言い残して、逃げるように去っていく。普通のカップルならここで浮気でも疑うところだが、彼女のいまの状況では、そんなことをしている余裕もないように思えた。僕は心底彼女のことを心配し、内定さえ出たら僕が事務所に負債を払い、アイドルの夢をあきらめさせようと決心していた。

 僕はまた高校生のころのように、美優と穏やかなデートがしたかった。サングラスも帽子もせずに、どこにでもいる当たり前のカップルとして。

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 しかし、その願いが叶うことはなかった。彼女がブレイクすることはその後もなく、さらに追い打ちを掛けるようにして父親が事業に失敗し、彼女の家は多額の借金を抱えることになった。彼女が事務所に呼び出されることは以前にも増して多くなり、次第に僕との距離は離れていった。

 互いにはっきりと別れを確認したわけではないが、デートの約束を何回か反故にされてからは連絡が途切れがちになり、僕らの関係はほぼ自然消滅したような格好だった。そのうち美優は大学にも姿を現さなくなり、僕は友人らに彼女の行方を何度か尋ねられたが、答えることはできなかった。

 そのときから、僕はもう彼女がどういった事情に巻き込まれているのか、もうおおよその想像がついていた。借金や契約に縛られ、アイドルの夢をあきらめた女の子たちが、どういったことをしてそのアフターフォローをしているのか。若く可愛らしい彼女らには、いくらでもそのツテがあるのだ。需要があり、供給があれば、起きる現象はひとつである。僕はなんとか彼女に連絡を取って、「僕がなんとかする」と伝えてやりたかった。汚い大人のルールに従って、夢と心中することなんてないのだ。しかし、美優の携帯はいつの間にか番号が変更されており、何度メールをしても、返信が返ってくることはなかった。

 彼女はいまごろどうしているのだろう? 正直に言えば、美優の家を直接訪ねることや、彼女の事務所に問い合わせるなど、ほかにいくらでも彼女と連絡を取る手段はあったのだと今になって思う。しかし、当時の僕はなぜか、どうしてもそうすることができなかった。もしもそうして彼女に会えたとしても、結局僕にできることなんて何もないのだ。「ボクガナントカスル」ことなんて、どうせできないことを僕は心のどこかで分かっていた。僕は彼女に手をさしのべるポーズだけは取っても、実際に人生を捧げて彼女を救う気なんてなかったのかもしれない。そういう意味では、僕はあのプロデューサーと同レベルの最低な男と言えた。





 それから数週間たったある休日の午後、美優が脂ぎった中年男と腕をからめて繁華街を歩いているところを目撃してしまったとき、あの「最悪の想像」はほぼ裏付けられたと言ってよかった。髪をほどき、サングラスもしていた美優は別人にも見えたが、彼女の変装姿を間近でずっと見てきた僕には、それが美優であることがすぐにわかった。そして、彼女が頭を預けて甘えているその男は、彼女が毛虫のように嫌っていたはずの事務所のプロデューサーに違いなかった。背が小さい美優はでっぷりと太った彼とまるで不釣り合いで、周囲には援助交際カップルのようにしか見えなかったと思う。男は美優の腰に気安く手を回し、短いスカートの上から彼女の尻をいやらしい手つきでなで回しながら、「どうだ、おれの女は」と言わんばかりに街を闊歩している。プロデューサーの趣味を強要されているのだろうか、美優は以前なら絶対に身に付けないような露出度の高い服装をし、細くて綺麗な脚を周囲に見せびらかすようにして歩いていた。



 僕から離れていった美優は、結局彼の助けにすがったのだろう。就職した僕に負担をかけるよりは、あの男に好きに利用されるほうを選んだということだ。もうはっきり言ってしまえば、彼女はプロデューサーの求めに応じて、彼の愛人にさせられていたのだと思う。事務所がこれまで出してきた経費を、美優はいま、自分の体で返しているのだ。親の援助にも頼れない彼女は、あの男の言うなりに応じるしかなかったのに違いない。もしかしたら、あの男は彼女の父親のことも利用したのかもしれない。借金の一部を肩代わりする代わりに性的な奉仕を強要するとか・・・まあ、もう想像しても仕方のないことだったが。



 彼女は僕に「愛してるよ」と言ったその唇で、あの太った男の陰茎をくわえこみ、白濁した液体をたっぷり射精されたのだろう。男の言うとおりのいやらしい格好をし、男の言うなりに下品なチンポ奉仕をさせられる性欲処理アイドルに堕ちたのだ。そう思うと、僕は胸がぎゅっと痛むように感じ、強烈な吐き気に襲われた。道路を挟んだ反対側で、男は美優の耳に口をつけるようにして何事か囁き、美優は尻を触られながら、ぎこちない笑顔を返している。男はきょろきょろと回りを見渡してタクシーを止めると、美優とともに乗り込んで、いずこかへ走り去った。きっとこれからラブホテルにでも連れ込んで、彼女の体を楽しむ気なのだろう。数ヶ月前、僕の誕生日にデートをしていたときも、美優が「事務所」に電話で呼び出されたことを思い出し、今更ながらに「あのとき、彼女は僕よりもあの太った男に奉仕することを選んだのだ」という事実を突き付けられて、僕はさらに陰鬱な気分に陥った。

                    * * *


 美優が出演しているアダルトビデオがあるという噂が大学で流れたのは、それから1カ月ほどしたころだ。


「やべーよ、美優ちゃんガチでAVデビューだよ!もうネットでサンプル動画が見れてよ、ありゃ間違いなく美優ちゃんだったわ。マジで買いだよ、買い」

「お前、ほんとに美優ちゃんと付き合ってなかったの?俺はてっきり裏で付き合ってると思ってたんだけどなあ。もったいねえ、あんな綺麗な体めちゃくちゃにできるなら俺、捕まってもいいね」


サークルの飲み会。ビールを片手に興奮した様子でそう報告する友人たちを前に、ぼくは生返事を返すしかなかった。美優とはあれから一度も連絡を取っておらず、行方知れずのままだ。AVに出なくては返済できないほどアイドル活動というのは金がかかるのか、と僕はいぶかしんだが、何のことはない、彼女は父親の借金をも肩代わりさせられているのに違いなかった。どうせあのプロデューサーの手引きなんだろう。

「いやー、アイドルから一気にAV女優とは怒濤の転落劇だなぁ。たしか美優ちゃん、前はカルピスかなんかのCMに一瞬映ったりしてなかったっけ? デビューのときは結構良かったらしいけどな~、女子大生になってアイドルってもうきついんかねぇ?」

「でもすっげえエッチな体してたわ、フェラも結構年季入っててよ、ひひっ!ありゃ絶対枕営業向きだと思ったね!」

 上機嫌でビールを煽る友人は、彼女のデビュー作が大勢の男優を相手に、2時間近くにわたってフェラチオと生中だしをひたすら繰り返す作品であることを僕に教えてくれた。しかも、その衣装は彼女が所属していた「ツインテール」のものであるらしい。

「いやー、サンプル動画で10回以上抜けるねアレは。美優ちゃんもちゃんとツインテールにしててさ、衣装もいいけど履いてるブーツもエロいんだよな~!」

「俺もファンだったからきついわ~、なんていうのコレ、寝取られた感っていうのかねぇ?もう発売されてるからお前も買って帰ったら?ははははっ!」

 無神経な友人に怒る気にもなれず、僕は早々と居酒屋を後にした。駅に続く繁華街を歩いていて、この場所で美優が男と歩いているのを目撃してしまったことを思い出す。軽い不快感を覚えながら、僕は駅へ向かう道からきびすを返し、裏路地へと入っていった。この先にアダルトDVDを扱うショップがあったことを覚えていたからだ。

 ピンク色ののれんをくぐると、センサーが人を感知して「いらっしゃいませ」と数回繰り返した。店内には猥雑な商品が所狭しと並んでいて、僕はその中をひとつひとつ物色していく。目当ての品は、思ったよりもずっと大きな扱いで陳列されていた。


「元アイドルが衝撃AVデビュー!下品なお掃除フェラは絶品!」

「男優29人を連続切り、ロリボディに生中出し21連発!」



僕はそんなポップを目に入れないようにしながら、パッケージをレジへと持って行った。

美優はもう僕のものではないということを、再確認するために。
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 たまにデートができても、美優は心ここにあらずといった調子だった。なぜかいつも携帯電話を気にしていて、例えば喫茶店にいる最中でも、事務所かららしい着信があるとあわてて店...
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